マーケティング史上に残る失敗例 「バービーのボーイフレンドがゲイになったとき」
2015/07/22
世界最大のおもちゃメーカー マテル社の事例
1945年創業、アメリカ合衆国カリフォルニア州エル・セグントに本社を構えるおもちゃメーカー「マテル社」は、世界中の少女たちを魅了してきた「バービー人形」の生みの親です。
バービー人形のすごいところは、少女たちが成長して世代が交代しても、常に新しい世代に受け入れられてきたことです。
世代が変化しても受け入れられてきた秘密は、「時代とともに自分を変化させる能力を備えていたこと」にあります。
バービーは常に「女性の成功モデル」であり続けた
バービー人形と言えば、様々な洋服を着こなすファッションセンスが特徴的ですが、ファッションだけでなくその時代の少女たちが求める「女性の成功モデル」の象徴として姿を変えてきました。
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宇宙飛行士、大学院生、医師、大統領候補、オリンピック選手、パイロット、CEOなど時代に沿った成功モデルであり続けました。
バービーは社会情勢も反映してきた
画像引用元:日本経済新聞
バービーが初めて発売されたのが1959年。色白で流し目の妖艶な雰囲気です。
1971年のバービーは正面をしっかり向いており、髪型やメイクも現代に近くなってきました。
1977年のバービーを歯を見せて笑っています。
1970年代前後のアメリカは女性の社会進出が活性化してきて、男女平等が叫ばれるようになってきました。
そういった社会情勢を反映して、バービーの表情も意志の強さを感じられるように変化していきました。
バービーのボーイフレンド 「ケン」が登場
バービーにはボーイフレンドがいます。
バービーから遅れること2年、1961年に登場したケンです 。フルネームは、ケン・カルソンでバービー人形シリーズを制作・販売しているマテル社創業者の息子の名前からとったと言われています。
ケンもバービー同様、「少女たちにとって理想の男性像」であるべく時代に応じて姿形を変えています。
その中でも最も議論を呼んだのが1993年登場の「イヤリング・マジック・ケン」です。
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「イヤリング・マジック・ケン」の風貌
タキシードを着ていた面影はなくメッシュのTシャツで肌を露出、紫色の皮ベスト、左耳には「イヤリング」をしています。
制作・販売元であるマテル社は「ケンとバービーは社会の真ん中にある多くの人を代表している。彼女たちがお父さんやお兄さんやおじさんに着ている服と同じ服をケンにも着てほしい。その願いを実現しているんです。」と当時語っています。
しかしマテル社の思惑とは裏腹に、その風貌からケンは「ゲイのケン」と言われるようになってきました。
アメリカの中流家庭では子供向けにゲイを連想させる人形は望ましくない。しかしマテル社はゲイ批判に過剰に反応してしまうと、今度は同性愛者の団体から「同性愛を否定する企業」という批判を受けてしまうというジレンマに陥りました。
何が問題だったのか
マテル社は5歳の少女たちに消費者調査を行い、その意見を参考に理想の人形を作りました。
事実、少女たちはマテル社の調査に対してイヤリング・マジック・ケンを『かっこいい』と答えました。
しかし問題はその『かっこいいい』の定義です。
イヤリング・マジック・ケンの格好は、家族や親戚のお兄さんが着ているものではなく、MTVやコンサートのダンサーが着ている衣装でした。
当時の少女たちはブラウン管ごしにその人々を格好良いと思っていましたが、マテル社が意図していた「社会の真ん中にある多くの人を代表する男性人形」ではなかったのです。
事例から見た教訓
「利用する消費者の声と購入する消費者の声、双方のニーズにあった商品作りを行うべし!」
バービー人形、ケン人形の消費者は2グループいます。
1グループは実際に人形で遊ぶ少女たちです。
もう1つのグループは、自分の娘や孫に人形を買い与える両親や祖父母です。
人形で遊ぶ少女たちに気に入ってもらえる商品作りをするのは勿論ですが、実際にお金を出す親たちにも気に入ってもらえる商品でないと子供まで届きません。
親たちにとってゲイを連想させる人形を子供に買い与えようとは思わなかったのです。
ほどなくして、「イヤリング・マジック・ケン」は販売停止、商品棚からも出来るだけ回収されました。
まとめると
マーケティングリサーチ(市場調査)を行うときに『かっこいい』『かわいい』『美味しい』『面白い』など漠然な答えだけではなく「このかっこいいは、どういった意味でのかっこいいか?」と意見の中身を調査する必要があります。
そのためには、調査を担当するリサーチャー側で意見の詳細を詰めて調査票を作成することが大切です。
消費者はあくまでも「消費のプロ」に過ぎません。消費者に企画を求めてはいけません。
自動車メーカー「フォード・モーター」の創業者ヘンリー・フォードの格言に「もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは『もっと速い馬が欲しい』と答えていただろう。」というのがあります。
近年ではiPhoneが登場したとき、多くの消費者は「おサイフケータイがない」「ワンセグがない」「赤外線がない」「電話としてでかすぎる」「タッチパネルが使いづらい」と不評でした。
実際当時の消費者調査では携帯電話を選ぶ基準に、おサイフケータイやワンセグが上位を占めていました。
しかし今では日本人のスマートフォンのうち半分はiPhoneが占めるという人気商品です。
面白いのが当時不満として上がっていた、「おサイフケータイがない」「ワンセグがない」「赤外線がない」「電話としてでかすぎる」「タッチパネルが使いづらい」という問題が、最新のiPhone 6でも一つも解決されていないのです。
逆にユーザーの要望通りに、おサイフケータイ、ワンセグ、赤外線機能をつけたスマートフォンを作ったNECやPanasonicは売れずにスマホ市場から撤退してしまいました。
消費者が求めているものは本当は何か? それを探り出すのがマーケティングの難しさであり面白さでもあると思います。
参考文献:あのブランドの失敗に学べ!
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